青森地方裁判所 昭和51年(わ)7号 判決 1978年3月24日
本籍並びに住居
青森県南津軽郡平賀町大字本町字北柳田一六番地
会社役員(元木材・建材販売業)
今井昭八
昭和八年二月一二日生
右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一〇月及び罰金六〇〇万円に処する。
この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
右罰金を完納することが出来ないときは、金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、青森県南津軽郡平賀町大字本町字北柳田一六番地に居住し、同所において、木材及び建材販売業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外し、これを仮空名義の普通預金に預け入れまたは無記名の定期預金とする等の方法により所得を秘匿したうえ
第一 昭和四七年中における総所得金額は二、二八九万三、三五〇円で、これに対する所得税額は九九三万〇、三〇〇円であるのにかかわらず、公表経理上売上及び期末たな卸の一部を除外するなどの行為により所得を秘匿したうえ、昭和四八年三月一五日、黒石市西ケ丘六六番地所在黒石税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は三一八万六、八一七円であつてこれに対する所得税額は四〇万一、一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により所得税九五二万九、二〇〇円を免れ
第二 昭和四八年中における総所得金額は五、〇一二万五五四円で、これに対する所得税額は二、六五八万七、三〇〇円であるのにかかわらず、公表経理上売上の一部を除外するなどの行為により所得を秘匿したうえ、昭和四九年三月一二日前記黒石税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は九七三万四、八七〇円であつてこれに対する所得税額は二七七万九、六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により所得税二、三八〇万七、七〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部につき
一 被告人の
(一) 当公判廷(第一回)における供述
(二) 検察官に対する各供述調書
(三) 提出にかかる上申書二通
一 証人渡辺定雄、同矢部貞夫(第四回及び第七回)並びに同今井ヒトミの当公判廷における各供述
一 今井ヒトミの検察官に対する供述調書
一 大蔵事務官作成の
(一) 被告人に対する各質問てん末書
(二) 今井ヒトミ(49・10・17付(B)及び49・12・16付(B))、今井フミヨ(三通)並びに村上俊一に対する各質問てん末書
(三) 臨検てん末書
(四) 検査てん末書三通
(五) 預金調査書
(六) 買掛金残高調査書
(七) 店主勘定になる租税公課の調査書
(八) 専従者給料等の調査書
(九) 総合課税になる利子所得等の調査書
(一〇) 店主貸勘定の調査書
(一一) 調査報告書(売掛金調査資料について)
(一二) 調査報告書(売上等の調査について)
(一三) 調査報告書(今井昭八の計算したたな卸商品の確定について)
(一四) 売掛金残高付表
一 村上俊一、阿部敏雄及び川口正孝作成の各証明書
一 阿部敏雄、村上俊一、水木清治(二通)、久保田英男、成田徳衛、藤田努(他一名)、佐々木孝(他一名)及び浅利統治郎作成(提出も含む)の各上申書
一 押収してある損益勘定元帳一冊(昭和五一年押第一四号の一)、営業日報綴三冊(同号の二の一ないし三)、たな卸表(同号の三)、銀行預金メモ一枚(同号の四)、普通預金通帳一通(同号の五)、所得税申告関係書類綴一冊(同号の六)、売掛金調査資料一冊(同号の一〇)、手形控帳一冊(同号の一四)及び経費伝票綴四〇綴(同号の一五)
判示第一の事実につき
一 大蔵事務官作成の
(一) 所得税の修正申告書謄本(昭和四七年分)
(二) 所得税領収済通知書謄本(昭和四七年分)
一 押収してある所得税確定申告書(昭和四七年分)一通(同号の七の一)、所得税青色申告書決算書(昭和四七年分)一通(同号の八の二)
判示第二の事実につき
一 大蔵事務官作成の
(一) 脱税額計算書(48・1・1~48・12・31)
(二) 所得税の修正申告書謄本(昭和四八年分)
(三) 所得税領収済通知書謄本(昭和四八年分)
(四) 香典収入の調査書
一 押収してある所得税確定申告書(昭和四八年分)一通(同号の七の二)及び所得税青色申告決算書(昭和四八年分)一通(同号の八の三)
(事実認定についての補充説明)
前掲の各証拠により判示記載の各事実の証明は十分であると思われるが、判示第一の事実につき、補充的に説明を加える。すなわち、起訴状記載の公訴事実においては、たな卸商品につきその額を確定するにあたり、公表と除外の額の合計の一〇〇万円未満を四捨五入して算出したものであるところ(調査報告書「今井昭八の計算した、たな卸商品の確定について」と副題のついたもの参照)、昭和四七年度期及び昭和四八年度期の総計としては所得が過少になるので、課税をするにつき全体としては被告人に不利益を及ぼすものではない。しかしながら、刑事責任を追及するにおいては、本件の事案では各年度につき一個の訴因を構成するものと解すべきであるから、個々の訴因につき被告人に利益な計算をすることはともかく、不利益な計算をすることはその合理的な根拠を欠くものと思われる。そこで、昭和四七年度期についてみるに、たな卸商品が、一〇〇万円未満の四捨五入により増加し、この限りで被告人は不利益をまぬがれない。したがつてこの点については、一〇〇万円未満の四捨五入は相当でなく、査察の段階で被告人が算出したところにもとづいて脱税の額を計算したものによるのが相当であると解する。
(法令の適用)
判示各所為につき 所得税法二三八条(懲役刑及び罰金刑の併科)
併合罪加重 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、四八条二項(懲役刑については判示第二の刑に法定の加重)
刑の執行猶予 刑法二五条一項
労役場留置 刑法一八条
訴訟費用の処理 刑事訴訟法一八一条一項本文
(公判出席検察官 板橋育男)
(裁判官 平良木登規男)